【AI】動画の着せ替えは全段OSSでいけるか【Qwen-Image-Edit + Wan2.2-Animate】


こんにちは、フリーランスエンジニアの太田雅昭です。

動画に写っている人物の服を、参照画像で指定した服に差し替える「動画着せ替え」を、オープンウェイトのモデルだけで組めるか検証しました。人物も服もすべて生成モデルで自前調達し、同一素材で OSS 構成とクローズドモデルを比較しています。コードと全アセットは blog-examples に置きました。

TL;DR

  • ブレザーの差し替え(replace mode 経路)は 全段 OSS で成立。Qwen-Image-Edit (Apache-2.0) → Wan2.2-Animate replace の 2 段で、商用クローズド (Kling O3 edit) と並べても遜色ない
  • 着物の差し替え(move mode 経路)は静止画段がすべてを決める。静止画段で生じた丈の欠陥は、動画段では一切救済されずに全フレームへ伝播する。参照素材を正して追試したところ、着物も全段 OSS で成立した(追試 1)
  • 背景のある動画では、replace mode は背景も顔も保持できる。move mode は背景が種静止画側の「似て非なる背景」に置き換わり、顔もドリフトするのが OSS 構成の残る構造的制約(追試 2)
  • 動画段は「静止画の品質をそのまま動画に運ぶ装置」であって、品質を作る場所ではない。品質ゲートは安い静止画段(と参照素材)に置くのが正解

パイプラインの分解

動画着せ替えを 1 モデルでやろうとせず、2 段に分解します。

  1. 静止画段: 人物の静止画に、参照画像の服を着せ替える
  2. 動画段: 着せ替え済み静止画へ、元動画のモーションを移植する

動画着せ替えパイプライン全体像

この分解が効くのは、失敗の 9 割が静止画段で起きるからです。静止画は 1 枚数セントで再生成・目視選別ができるので、高価な動画段(1 本数十セント)に入る前に品質を確定できます。

素材はすべて生成で作る

権利をクリーンにするため、素材も生成モデルで作りました。

  • 服の参照画像 2 種: flux/dev で生成。タータンチェックのブレザー(柄の忠実度テスト)と紺の着物
  • 人物: flux/dev で全身立ち姿の静止画を作り、wan-i2v で 5 秒動画化
タータンブレザーの参照画像 着物の参照画像 種になる人物静止画 モーション源となる元動画

3 枚目が Qwen-Image-Edit に流し込む「人物」、4 枚目 (アニメーション) が動画段の Wan2.2-Animate に流し込む「モーション源」の元動画です。

服の参照画像は「前を閉じた flat lay・白背景・服単体・マネキン不可視」で作ります。マネキンが写っていると、その胴体や首が出力にインナーや白い線として漏れます。

静止画段: 3 モデルの比較

同じ人物 × 同じ服参照で、性格の違う 3 モデルを比較しました。

モデル種別ブレザー着物
Kolors virtual try-onVTON 特化・クローズド成立破綻
Seedream editinstruction 編集・クローズド-成立
Qwen-Image-Editinstruction 編集・Apache-2.0成立参照に忠実(本文参照)
Kolors の着物は破綻する

VTON(virtual try-on)特化型の Kolors は、学習分布内の洋服なら柄・格子・金ボタンまで正確です。しかし着物のような分布外の服型では完全に破綻し、「ひざ丈のラップドレス + ロングブーツ」になりました。衿・帯・袂という着物の構造をそもそも作れません。

Seedream は着物を正しく着せる

instruction 編集型はこの服型の壁を越えられます。クローズドの Seedream は足首丈・広袖・衿合わせ・帯まで一発で正解しました。

Qwen-Image-Edit のブレザーは Kolors と同水準

本命の Qwen-Image-Edit (Apache-2.0) は、ブレザーでは Kolors と同水準の再現度が出ました。全段 OSS の望みをつなぐ結果です。

Qwen-Image-Edit の着物はひざ丈になった

一方、着物は丈がひざ丈で止まり、裾から元のダークパンツが覗きました。

当初これを Qwen の失敗と解釈したのですが、参照画像を見直すとそもそも生成した着物素材自体がひざ丈でした。つまり Qwen は参照画像に忠実だっただけです。プロンプトでは ankle-length と指示していたので、ここで観測されたのは「参照とプロンプトが矛盾したとき、Qwen は参照を優先し、Seedream はプロンプトを優先した」という挙動差であって、着せ替え能力の優劣ではありません。正しい丈の参照での再試行は追試 1 で行い、そちらで決着します。

参照画像は生成直後に「マネキンが写っていないか」「ぼけていないか」だけ確認して通していました。服の構造(丈・衿・帯の位置)まで参照素材の段階で目視検収すべきだった、という検証設計の反省です。

動画段: Wan2.2-Animate の 2 モード

Wan2.2-Animate には構造の違う 2 モードがあり、使い分けが必須です。

  • replace mode: 元動画から人物マスクを抽出し、その内側に新しい人物を合成する。背景・画作り・フレーミングを完全保持するが、マスクの外には描けないため、そこからはみ出す服は切り詰められる
  • move (animation) mode: 種静止画の世界をベースに、モーションだけを元動画から移植する。マスクの拘束がない代わりに、背景・フレーミングは種静止画側になる

両モードの差を、同一の元動画・同一の種静止画で直接比較しました。まず追試 1 の着物静止画を両モードに通すと、意外にも replace でも裾は切り詰められず、足首丈が出ました(左が replace、右が move)。

左: replace、右: move。同じ着物静止画を両モードに通した比較

今回の元の人物は暗色ジャケット + 幅広パンツで脚まで服に覆われており、着物が人物マスクにほぼ収まっていたためです。拘束は「元の服の形」ではなく「人物マスク」なので、収まってしまえば着物でも replace が通ります(袖のボリュームだけは move が参照に忠実)。

そこで、人物マスクから確実にはみ出す服として、裾が大きく広がるボールガウンで比較し直しました。

Qwen で着せたボールガウンの種静止画

種静止画は Qwen-Image-Edit 製。ガウンの裾が人物の輪郭から左右に大きく張り出しており、これを両モードに通します。

左: replace はガウンが切り詰められ破綻、右: move は広がりを保持

今度はモード差が一目瞭然です。左の replace はガウンの広がりが人物マスクに切り詰められ、スカートが脚の形に沿って割れた不自然な出力になりました。右の move は参照どおりの広がりを保っています。

実用上の順番としては、replace が通れば背景と顔が保持される利点が大きいので、まず replace を試し、切り詰めが出たら move に切り替えるのが良さそうです。

結果

ブレザーの差し替え: 全段 OSS は Kling に並んだ

左が全段 OSS (Qwen-Image-Edit → Wan2.2-Animate replace)、右がクローズドの Kling O3 edit です。

左: 全段OSS、右: Kling O3 edit

柄の忠実度、顔の保持、パンツ・背景の保全、いずれも目視で差が付きませんでした。ライセンスの縛りがある案件でも、replace mode で足りる着せ替えならオープンウェイトだけで製品品質が出せます。

着物への差し替え: 静止画の欠陥はそのまま動画になる

左が Seedream 起点(クローズド)、右が Qwen 起点(全段 OSS)を、同じ move mode に通した結果です。

左: Seedream起点は足首丈、右: Qwen起点は静止画のひざ丈がそのまま伝播

注目してほしいのは右側です。静止画段の「ひざ丈 + パンツ露出」が、1 フレーム目から最終フレームまで一切補正されずに動画化されています。move mode は種静止画の丈を正しい着物の丈へ「救済」してはくれません。この欠陥の出どころを遡ると参照素材の丈にたどり着くわけで、参照素材 → 静止画 → 動画と、上流の欠陥が 2 段を素通りして最終出力まで届いたことになります。静止画品質(さらに言えば参照素材の品質)が動画品質の天井を決める、というこのパイプラインの本質がよく分かる例です。

Kling O3 edit はプロンプトのみで着物に差し替える

ちなみに Kling O3 edit は動画 1 本の入力にプロンプトを添えるだけで、着物への差し替えも 1 段で処理します。

追試 1: 参照素材を正したら、着物も全段 OSS で成立した

「正しい丈の参照ならどうなるか」を実際に確かめました。参照画像を縦長フレーム(portrait_16_9)に変え、丈を強調するプロンプトで作り直したところ、1 発で足首丈の着物が出ました。今回は検収基準を数値化し(帯から裾の長さが肩から帯の 1.5 倍以上)、ピクセル実測 2.58 倍で合格を確認してから次段へ進めています。

作り直した足首丈の着物参照 Qwen-Image-Edit は足首丈を正しく出した

この参照で Qwen-Image-Edit を再実行すると、裾が足首まで届き、パンツ露出のない正しい着物が出ました。前回のひざ丈はやはり「参照への忠実さ」だったわけです。

留意点として、作り直した参照は flat lay ではなくゴーストマネキン風の吊り下げ提示になったため、改善の原因が「丈」なのか「提示方法」なのかは厳密には分離できていません。ただ実務上は「参照を正せば出る」ことが確認できれば十分です。

全段OSSで着物への差し替えが成立した動画

この静止画を move mode に通すと、足首丈・袂・帯が最終フレームまで保たれた動画が得られました。Qwen-Image-Edit (Apache-2.0) → Wan2.2-Animate という全段 OSS 構成は、ブレザーだけでなく着物でも成立します。本編の「判定不能」はここで決着です。

追試 2: 背景がある場合

ここまでの検証はすべて白スタジオ背景でした。実運用は背景のある動画が普通なので、街角背景の素材を作って再検証しました。

街角背景の元人物 Qwen で着せ替え。背景は意味的には保持されるがピクセルは別物

まず静止画段。Qwen の着せ替えは、建物・車列・標識の配置という意味レベルでは背景を保持しますが、拡大すると歩行者の姿勢や車の細部が変わっており、ピクセルレベルでは別物です。instruction 編集型が画像全体を再生成する構造の帰結で、これが次の動画段の結果を分けます。

ブレザー(replace mode)は問題ありませんでした。replace は元動画のピクセルの上に人物だけ合成するため、背景は本物のまま残ります。左が全段 OSS の replace、右が Kling で、どちらも背景・歩行者・車列を保持しています。

左: replace mode、右: Kling。どちらも背景保持

問題は着物(move mode)です。move mode は種静止画の世界をベースにするため、背景も種静止画側、つまり「Qwen が再生成した似て非なる背景」になります。左が元動画、右が move の出力で、一見同じ街に見えますが別物の背景です。

左: 元動画、右: move mode。背景が似て非なるものに置き換わる

背景と同じ理屈は顔にも効きます。move 経路は Qwen と Animate の 2 段再生成を経るため顔もドリフトし、特に全身 + 背景の構図では顔のピクセル数が小さいぶん劣化が強く出て、並べると「似た別人」寄りになりました。白背景・顔が大きく写る素材では軽微で済んでいたので、「種静止画の顔品質 × 顔の解像度」が move 経路の顔品質を支配します。一方 replace と Kling は元動画の顔をほぼそのまま保持します。

整理すると、背景のある動画では replace は背景も顔も保持でき、move は背景がすり替わり顔もドリフトします。move を使わざるを得ない場合(着物が人物マスクからはみ出す素材など)は、背景・顔の保持を諦めることになるのが OSS 構成の残る構造的制約です。Kling はこれを 1 段で両立します(参照画像 + 着物の同時指定は未検証)。

教訓

  1. 品質ゲートは上流に置く。動画段は静止画の美点も欠陥も忠実に運ぶだけで、修復はしない。そして静止画段も参照素材の欠陥を(モデルによっては)忠実に運ぶ。目視検収は参照素材から始め、検収基準はできるだけ数値化する(追試 1 では丈の比率で判定した)
  2. モデルは服型で使い分ける。VTON 特化型は学習分布内なら精密、分布外では破綻。着物のような服は instruction 編集型へ
  3. 参照とプロンプトが矛盾したときの挙動はモデルごとに違う。Qwen-Image-Edit は参照優先、Seedream はプロンプト優先だった。どちらが「正しい」かは用途次第だが、この差を知らないと今回のように能力差と誤読する
  4. 失敗は「壊れた画」ではなく「自然な別の服」として出る。replace でガウンが切り詰められた出力は、ビスチェ + ワイドパンツ風の実在しそうな服に再解釈されていた。生成モデルの prior がマスク内の辻褄を「服として自然な画」で合わせるためで、破綻がエラーらしい見た目にならない。つまり機械的な破綻検知は効かず、品質判定は「自然かどうか」ではなく「参照と一致するか」を目視で見るしかない
  5. 全段 OSS の現在地: ブレザーも着物も、正しい参照素材があれば製品品質(追試 1)。残る構造的制約は move 経路での背景・顔の保持で(追試 2)、ここが要件に入るなら現状はクローズド(Kling)を選ぶことになる

小ネタ: flux/dev のシード依存ソフトフォーカス

シード起因のソフトフォーカス例

素材生成中、flux/dev で同一プロンプト・同一パラメータなのに、特定のシードだけ画像全体に強いソフトフォーカスがかかる現象を複数回踏みました。sharp focus 系のワードを足しても直らず、シードを変えると即座に解消します。

プロンプトを疑う前にシードを引き直す方が早い、という知見でした。これも「静止画段で選別してから動画段に進む」設計を後押しする材料です。

コスト

本編(静止画 5 ケース + 動画 5 本 + 素材生成・引き直し込み)で約 $3.5、追試 2 本(素材再生成 + 静止画 + 動画 4 本)で約 $2、mode 直接比較(着物 × replace とボールガウンの素材・静止画・動画 3 本)で約 $1.3、全体で $7 前後でした。内訳の目安は fal.ai 経由で、flux/dev $0.025/MP、Qwen-Image-Edit $0.03/MP、Kolors $0.07/枚、Wan2.2-Animate $0.08/秒、Kling O3 edit standard $0.14/秒です。動画着せ替えは 5 秒 1 本あたり OSS 経路 $0.4、Kling $0.7 程度で、コスト差よりも品質と入力契約の違いで選ぶ領域です。

再現スクリプトは blog-examples の run_pipeline.py にあります。